様式と転成

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ヤンソンス指揮バイエルン放送響:ベートーヴェン交響曲第3番『英雄』@サントリーホール

 

http://www.flickr.com/photos/12982516@N02/9314090425

photo by David Holt London

 

 霜月最後の月曜日。つめたい雨に濡れる夜六時。少し早く着いてしまったので、窓口でチケットを発券して貰ってから近くのカフェでひと息つく。バイエルンヤンソンスによるベートーヴェン・ツィクルス。想像を巡らせるとにわかに心が躍り始めた。サア、入場、着席、そして、開演。ベートーヴェンの第四交響曲。ものすごく落ち着いていて抑え気味かと思うくらい。だが、普通のオーケストラとはたしかに違った。安定した音楽だが、高密度に収縮されている。フワフワとすることなく、しっかりと纏まっている。なかなか聴いたことのないサウンドだった。

 

 純正のベートーヴェン

 

  

 休憩を挟んで、愈々ベートーヴェンの第三交響曲『英雄』。始まりの和音は硬質だったが、その後は意外なほど力の溢れる音楽がつづいた。葬送行進曲は前半はのびやかさが皆無でクリアな印象だったが、途中から悲壮感漂うエネルギッシュで美しい演奏へとガラッと変わった。第三楽章からフィナーレにかけては絶賛する外ない。フルトヴェングラーには及ばないまでも十分にそのロマン的な音楽性を堪能させてくれた。「今たしかに『英雄』を聴いているのだなア」と想わせてくれた。のびやかな木管、高らかな金管、繊細かつ強靭な弦楽に、幾度となく涙した。

 

 

 オーケストラも然ることながら、ヤンソンスも素晴らしい。眼を瞑って聴いていると、厳しく刻み込むような音楽がふつとやわらかくなることがある。「あれ?」と思って眼を開けてみると、ヤンソンスは棒でなく手を存分に使ってオーケストラになめらかな動きを求めていた。そうかと思えば、グッと踏み込むこともあり、飽和せんばかりに大きく広げることもあり、改めて感激してしまうのだった。予想以上に愉しめたので、今は他の公演のチケットも検討しておけばよかったと少なからず後悔している。

 

 ゆるやかにしめやかに

 

 アンコールはシューベルトの『楽興の時』から第3番。ベートーヴェンのシンフォニーを二つも聴いた聴衆の緊張を、その優雅な音楽で一瞬にして解いてくれた。すばらしい選曲。短いその曲の最後にヤンソンスはほとんど聴衆の方を向いてニコッと笑いながら音楽を止めた。何だかムジークフェラインザールで新年のコンサートを聴いているような心地さえしてうれしくなった。本当に、有難う。勿論、拍手はヤンソンスがひとり再び登壇するまで鳴り止まなかった。駅への帰り道、『楽興の時』の旋律は心の中で木霊しつづけた。

 

 

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