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Project KALAVINKA

日常に眠っている「美」を千切り取ってゆく

「バルビゾンへの道」展@Bunkamuraザ・ミュージアム

 

http://www.flickr.com/photos/35245025@N03/8436887274

photo by EyeOTBeholder

  

 つめたい風に揺れる渋谷。夜の六時を越えたころ。もうクリスマスの装いをして煌びやかなBunkamura。東急の隣を歩きながら向かう道すがら、テールランプや街灯が冬の夜をほんのり暖かく彩るようで少し涙ぐむ位には感傷的になっていた。

 

 素朴の光学

 

 バルビゾン派の、コローの絵がとても好きなのでどうしてもこの美術展に来たいと思っていた。それにしても、Bunkamuraザ・ミュージアムってプログラムがいつも絶妙で感心して仕舞う。極端に人気なものではなく、その周縁部を奇麗に象って魅せてくれる。ここの学芸員とかプログラムに係わっている人たちには感謝したい。結果、今回も驚きの連続であった。コローというかバルビゾンの絵画はそれほどではなく、他の絵に惹きつけられることが圧倒的に多かった。勿論、コローのあの独特の、薄く灰の滲むような鈍い銀いろの空には矢張りため息が出るのだが、バルビゾンと銘打っておきながらこの美術展はそこから色々な方向へとわたしを誘ってくれた。

 

Serenade for string orchestra, Op. 20: Larghetto

Serenade for string orchestra, Op. 20: Larghetto

   

 聖書に秘められた美学

 

 第一章は神話に纏わる絵画から始まる。西洋宗教に造詣のないわたしには矢張りそこまで感慨をもたらすものではない。残念ながらこの辺りはさあつと流れて行った。あ、そうそう。そういえば、入ったときに啞然としてしまったのだが、ものすごく空いていたのは何故なのだろう。Bunkamuraなんてもういつも混雑している印象しかないのだが、信じられない位にひとが少なかった。ひとつの絵にひとりの人という感じで、鑑賞がスムーズに進む。さて、このゾーンで最も印象に残っているのは、ジャン=ジャック・エンネル『荒れ地のマグダラのマリア』。画面そのものが持つ迫力もさることながら、壮麗なみどりの衣を纏うマリアのうつくしさには言葉を失う。アイルワースのモナリザに近いものを感じた。そう、このマリアの絵画に秘められている美学にはどこかあのモナリザととても共振しているものがある。眠るようにやさしくやらわやく、威厳はなく、ただ穏やかに。

 

 イギリス文学と美術の粋

 

 眠るようにと云うとバーン=ジョーンズの『眠り姫』を想い出すけれど、それにも近いかも知れない。優美あるいは清淑、そういうイメージというかそういう空気が絵画から溢れて来るのを感じて、しばらく茫然と見蕩れるしかないのである。他にも文学のゾーンでは、シェイクスピアの戯曲の場面を描いたものやキャラクターの肖像画などがあってどれも力の漲る絵だった。絵の巧拙というより、描いているもの自体に宿っている生命のようなものを感じざるを得ない、そういう絵画群だった。矢張り、シェイクスピアは只者ではない。コーネリアやデスデモーナの絵を観ていたら、思わず読み返したいと思った人も決して少なくないだろう。

 

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 美しき裏切り

 

 というように、本当にバルビゾン派を楽しむという本来の目的とはかけ離れた、意想外な享楽に耽る美術展だった。後半でバルビゾンの風景画が並んでいるところもあり、確かに仄かな光が滲みだす瞬間をとらえたような、あるいはのどかな田園の一瞬を余すところなく映したような、そういう絵の多くにこころが動く。しかしながら、もうわたしの心は他の処に飛んで行って仕舞ったようで、終盤ではクールベの『波』に描き込まれた偉大な海原と蒼穹の世界に浸って陶然とする始末であった。もう完全に、バルビゾンははかなく霞んでいた。次は上野でターナー観ないとなアなんて考えながら、そそくさとミュージアムショップを駈けて行った。

 

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