様式と転成

Words without thoughts never to heaven go.

ヘンヒェン指揮読響:ブラームス交響曲第1番@サントリーホール

 

http://www.flickr.com/photos/28511726@N00/8538473673

photo by tigion

 

  鬱々とした暗い空に気持ちの萎える日。夕方まで近所のカフェで読書に耽る。陽の未だ沈み切らない内に小説を閉じて、六本木一丁目に向かう。ここ二カ月くらいの間、仕事が立て込んでいたせいか、コンサートに行く機会を失うことばかりだった。雨のしとしと落ちる中、サントリーホールに入場する。読響とハルトムート・ヘンヒェンの共演は今回が初めてらしく、プログラムはシューベルトブラームスということで期待は膨らんでいた。

 

 

 麗しげな弦楽よ

 

 ブラームスの『悲劇的序曲』、勇壮なテーマが恰好いい曲だ。しかしながら、それほど悦に入ることはなかった。ヴィオラがよく聴こえる席に座っていたのだが、当然それぞれのパートがアンバランスに響いて来るのでそれに慣れるのに少々梃子摺ってしまった。でもまあ何と言うか、熱烈で悲壮に紡ごうとするのでなくどちらかと言えば丁寧なひびきを創ろうとしているように感じた。続いてシューベルトの『未完成』、こちらも楽曲そのものの世界に浸るような境地に至ることは残念ながらなかった。それよりも読響の、特に弦楽のすばらしさを味わっていた。第一楽章の弦楽にはどこか痛々しいような切なく、そして苦しく怖ろしいメロディーを奏でるところがあるが、読響はそうしたところを確かに紡いでいた。一転して温かみのある第二楽章では、ヘンヒェンの主張しすぎない心床しい色彩がよく表顕していた。 

 

 

 ドレスデンの想い出

 

 少憩の後、ブラームス交響曲第1番。言わずと知れた名曲である。様々な名演が語られ、様々な解釈が試行され、その度に喝采あるいは非難が生まれ、ブラームスの精神は脈々と受け継がれてゆく。広く人口に膾炙した曲でもあり、私自身クラシックに親しみを持ち始めた頃は本当によくこの曲を聴いていた。ヘンヒェンと読響のコンビネーションによる今宵の演奏は、とても充実していた。とにかくオーケストラの重心が低く、全体的にはとても静的で安寧としているが、ここぞというタイミングになるとオーケストラがすつと躍動するところがある。その瞬間、ふつと閉じている瞳を開いて舞台で指揮するヘンヒェンの姿をしばし眺める。甘く歌い過ぎることもなく、かといって暗くし過ぎて安っぽく響かせることもしない。とても難しいバランスの線の上で美を追求しているかのようだった。シューベルトの時と同様に、弦楽の伸びやかさが印象に残っている。コーダではエネルギッシュに轟かせ、感動的なクライマックスを築いてくれた。何やら評判は好くないようだが、わたしは十分ブラームスを堪能できたと思っている。また機会があれば、たとえばブラームスなら交響曲第三番を聴いてみたい。

 

Remove all ads