Project KALAVINKA

日常に眠っている「美」を千切り取ってゆく

「樹をめぐる物語」展@損保ジャパン日本興亜美術館

 

http://www.flickr.com/photos/23558328@N00/5452785905

photo by Atom Malchick

 

 ゴールデンウイーク最終日。暑く晴れた午後に、緑あふれる絵画の群れを観に新宿駅西口へ降り立つ。世界最大とも言われるこのターミナルにはそれがゆえに心なしか寂しさのようなものが漂っている。大きすぎて広すぎるものが人々に恐怖を与えるような仕組みで以って脈動する駅。それを知ってか知らずか、叫ぶもの黙るもの駆けるもの止まるもの、様々な運動がそこかしこに溢れ返る。西新宿の気に当てられて、一端お茶屋さんで休んでから美術館へ向かった。

  

 

 清々しい緑の殿堂 

 

 西洋絵画の第一イメージは「風景画」だろう。宗教画とも肖像画とも違う、画家たちが戸外で絵画を作製するようになった時代。コローの絶妙の薄暗さ、ピサロの朗らかな色彩美、印象派展でもよくみる画家の作品が並ぶ。若葉の美しい頃合いだから、自然ときれいな緑色をつかった絵画を眺めている。広告にも使われているドービニーの絵には避暑地のせせらぎが響いてきそうな趣さえあった。暗くも明るくもなく、清涼感がほのかに残った奇麗なみどりだった。

 

 美的効果を転々と

 

 この美術展で印象に残った絵は二つある。一つはモネの『ヴェトゥイユの河岸からの眺め、ラヴァクール(夕暮れの効果)』。もう一つはロベール・パンションの『道、雪の効果』。モネの絵には改めて感服する。絵を観ていてもそうだったし、帰り際にこの絵が広告になっているのをみてその色合いの違いに驚きを隠せなかった。パンションについては、全体にかかるピンクの色合いがきれいなだけでなく、フォービズム的なところが透けていて何だか魅かれる。振り返ると「樹」を観ていたのかどうか怪しい。

 

 モネの「夕暮れの効果(effet du soir)」が他と圧倒的に異なるのは、その画面が生気に溢れていること。河は河で、空は空で、林は林で、草は草で、凝縮されて描き込まれた色の集合が競り上がってくるような印象を受けた。悪く言えばゴツゴツとした絵とも言えるが、いずれにしてもこれ程の力感は最早風景画の域を越権している。色が乗っていて、観ていて心が揺り動かされる絵だった。パンションの絵も興味深くうつくしい絵ではあるが、モネのこの作品が与えたあの躍動感はほとんど奇跡的とも言えるだろう。最近は現代アートに関心が移っていたが、改めて印象派王政復古しそうな勢いだ。

 

 色彩を創り出す才気

 

 パンションの「雪の効果(effet de neige)」は恐らくこの美術展からして最も想像と違う絵とも言える。色彩的にも題材的にもそうだろう、基調色はピンクで描かれているのは冬枯れの街路樹。大地の部分に、青や黄色や紫をほとんどそのまま塗っている跡があった。異様な感じも与えるが、鉱石に含まれる色彩美は正にあのように不揃いでバラバラに散りばめられている。あの大地の塗り方にはそうした原始的な色の配合を彷彿とさせるようなところがあった。それはナビ派やフォービズムに感じるような主観的かつ装飾的な「色」への拘りと近い気がする。これはこれでモネにはなかった特筆すべき美学だ。

 

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